子猫を迎えてしばらくすると、動物病院で「そろそろ去勢(避妊)手術を考えましょうか」と声をかけられることがあります。「まだこんなに小さいのに、本当に必要なの?」「全身麻酔は怖い」「費用はどのくらいかかるの?」。初めての手術を前に、さまざまな不安や疑問を感じる飼い主は多いでしょう。
去勢・避妊手術は、望まない妊娠を防ぐだけでなく、猫の病気の予防や、発情にともなうストレスや困った行動を減らすことにもつながる、大切な手術です。特にメス猫では、初めての発情が来る前に避妊手術を受けることで、命に関わることの多い乳腺腫瘍のリスクを大きく下げられることがわかっています。
この記事では、去勢・避妊手術で何をするのか、メリットとデメリット、手術に適した時期、費用と自治体の助成金、手術前後の流れ、術後のケアと肥満対策まで、図解を交えてくわしく解説します。
この記事でわかること
- 去勢・避妊手術の内容と、オス・メスの違い
- 手術のメリットと、知っておきたいデメリット・リスク
- 手術に適した時期と、費用・助成金の目安
- 手術前の準備と、当日の流れ
- 術後のケアと、太りやすくなることへの対策
結論:生後6か月前後、初めての発情前が目安
猫の去勢・避妊手術は、生後6か月前後、できれば初めての発情が来る前に受けるのが一般的な目安です。猫は早ければ生後4〜6か月ごろから発情が始まるため、子猫を迎えたら、ワクチン接種のときなどに、手術の時期を早めに獣医師に相談しておきましょう。
- オス:スプレー行動が習慣になる前、生後6か月前後が目安
- メス:初めての発情前の手術で、乳腺腫瘍の予防効果が高い
- 成猫:成猫になってからでも手術は可能。病気の予防やスプレー対策に効果がある
- 時期の決め方:体格や健康状態、ワクチンの進み具合を見て、獣医師と相談
手術には全身麻酔が必要ですが、手術前の検査で体の状態を確認し、安全に配慮して行われます。心配なことは遠慮せずに獣医師に質問して、納得したうえで手術を受けましょう。
ペットショップやブリーダーから迎えた子猫の場合は、手術がまだのことがほとんどです。一方、保護団体から譲渡される猫は、すでに手術を済ませていることも多いので、迎えるときに確認しておきましょう。手術済みの猫は、耳の先が桜の花びらのような形にカットされている(いわゆる「さくら耳」)ことがありますが、これは主に地域猫として手術を受けた印です。
去勢・避妊手術で何をする?
「去勢」はオス、「避妊」はメスの手術を指します。どちらも全身麻酔をかけて行い、繁殖に関わる臓器を取り除きます。
| 比較 | オス(去勢手術) | メス(避妊手術) |
|---|---|---|
| 取り除くもの | 精巣 | 卵巣(または卵巣と子宮) |
| 切開する場所 | 陰のうを小さく切開 | お腹を切開 |
| 手術時間の目安 | 比較的短い | オスより長め |
| 入院 | 日帰りが多い | 日帰り〜1泊が多い |
| 抜糸 | 不要なことが多い | 7〜10日後に行うことが多い |
オスの去勢手術は、陰のうを小さく切開して精巣を取り出す手術で、比較的短い時間で終わります。傷口も小さく、縫わずに済むことも多いため、体への負担は比較的軽い手術です。
メスの避妊手術は、お腹を切開して卵巣を取り除く手術です。病院によっては、卵巣と一緒に子宮も取り除きます。お腹を開ける手術なので、オスに比べると手術時間が長く、術後のケアも少し手厚く必要になります。最近は、腹腔鏡を使って傷を小さくする方法を取り入れている病院もあります。
どちらの手術も、一度行うと元に戻すことはできません。家族でよく話し合い、手術について納得したうえで決めましょう。
去勢・避妊手術のメリット
去勢・避妊手術には、猫の健康と、猫との暮らしの両方にさまざまなメリットがあります。

特に大きいのが、メス猫の乳腺腫瘍の予防です。猫の乳腺腫瘍は、その多くが悪性(がん)で、見つかったときには転移していることも少なくありません。海外の研究では、生後6か月までに避妊手術を受けた猫は、手術を受けていない猫に比べて、乳腺腫瘍のリスクが大幅に下がったと報告されています。手術の時期が遅くなるほど予防効果は小さくなるため、早めの手術が大切です。
避妊手術で子宮や卵巣を取り除けば、子宮に膿がたまる子宮蓄膿症や、卵巣の病気も防げます。オスでは、精巣の腫瘍などの病気を防ぐことができます。
行動面では、オス猫のスプレー行動や、縄張り意識からくるけんかが減ることが期待できます。メス猫の発情期には、大きな声で鳴き続けたり、体をくねらせたりと落ち着かない状態が続き、猫にとっても飼い主にとってもストレスになりますが、手術をすればこうした発情のストレスがなくなります。スプレー行動については「猫のスプレー行動をやめさせたい!」で紹介しています。
デメリットと手術のリスク
去勢・避妊手術にはたくさんのメリットがありますが、知っておきたいデメリットやリスクもあります。
- 全身麻酔のリスク:健康な若い猫ではリスクは低いが、ゼロではない。手術前の検査で体の状態を確認する
- 太りやすくなる:ホルモンの変化で、必要なエネルギーが減り、食欲が増えることが多い
- 子どもを産めなくなる:一度手術をすると元に戻せない
- 費用がかかる:メスはオスより費用が高め
- 術後の合併症:まれに傷口の感染や、縫った糸への反応などが起こることがある
中でも気をつけたいのが、太りやすくなることです。手術のあとは、体が必要とするエネルギーが減る一方で、食欲が増えることが多いため、手術前と同じ量を与えていると太ってしまいます。肥満は、糖尿病や関節の病気、尿路結石などのリスクを高めるので、術後は食事の管理が大切です。
全身麻酔については、心配になる飼い主も多いでしょう。手術前には、身体検査や血液検査で、麻酔をかけても問題ないかを確認します。心臓の病気が心配な猫種の場合は、心臓の検査を追加することもあります。気になることがあれば、事前に獣医師にしっかり確認しておきましょう。
手術のメリットとデメリットを比べると、多くの場合、メリットのほうが大きいと考えられています。特に、メス猫の乳腺腫瘍や子宮蓄膿症は命に関わることの多い病気で、手術によってそのリスクを大きく下げられることは、何よりのメリットです。デメリットの多くは、術後の食事管理や、事前の検査で対策することができます。
手術に適した時期
手術の時期は、猫の成長や健康状態を見ながら決めます。一般的な目安は次のとおりです。

多くの動物病院では、ワクチン接種がひととおり終わり、体重が十分に増えた生後4〜6か月ごろに手術を行っています。メス猫は、早い子では生後4〜5か月で初めての発情が来ることもあるため、それより前に手術を受けられるよう、早めに相談しておきましょう。
保護団体などでは、生後2〜3か月ほどで手術を行う「早期不妊手術」が行われることもあります。新しい飼い主のもとに行く前に手術を済ませることで、望まない繁殖を確実に防ぐためです。
成猫になってから迎えた猫や、手術のタイミングを逃してしまった猫でも、手術を受けることはできます。病気の予防や、スプレー行動などへの対策として効果が期待できます。ただし、メスの乳腺腫瘍の予防効果は、年齢が上がるほど小さくなります。発情中や妊娠中の手術は、出血が多くなるなどリスクが高くなるため、時期は獣医師とよく相談して決めましょう。
手術の費用と助成金
去勢・避妊手術の費用は、動物病院や地域、手術の方法によって違います。一般的な目安は次のとおりです。
| 項目 | オス(去勢) | メス(避妊) |
|---|---|---|
| 手術費用の目安 | 1万5,000〜3万円程度 | 2万〜5万円程度 |
| 術前検査(血液検査など) | 5,000〜1万円程度(手術費に含まれることも) | 5,000〜1万円程度(手術費に含まれることも) |
| その他 | 痛み止め・抗生剤など | 入院費・術後服・エリザベスカラーなど |
メスの避妊手術は、お腹を開ける手術で時間もかかるため、オスの去勢手術より費用が高くなるのが一般的です。病院によって、術前検査や薬、入院費が手術費用に含まれているかどうかが違うので、予約のときに総額を確認しておきましょう。
自治体によっては、飼い猫の去勢・避妊手術の費用を一部助成している場合があります。助成額は数千円程度のことが多く、申請の時期や条件、対象となる動物病院が決まっていることもあります。お住まいの自治体のホームページで確認してみてください。飼い主のいない猫の手術を対象にした助成制度もあります。
去勢・避妊手術は、病気の治療ではないため、ペット保険の補償の対象外になっていることがほとんどです。子猫を迎えるときの費用として、あらかじめ予算に入れておきましょう。猫の飼育費用全体は「猫の飼育費用はいくら?」で紹介しています。
手術前の準備
手術を受けると決めたら、次のような準備をしておきましょう。
- 予約と事前相談:手術の日程、費用、入院の有無、術前検査の内容を確認する
- ワクチン接種を済ませておく:病院内での感染を防ぐため、ワクチン後に手術を行うことが多い
- 絶食・絶水の指示を守る:麻酔中に吐いたものが気管に入るのを防ぐため。前日の夜から絶食するよう指示されることが多い
- キャリーに慣らしておく:当日スムーズに連れて行けるよう、ふだんからキャリーを部屋に置いておく
- 術後の準備:静かに休める部屋、エリザベスカラーや術後服、低めのトイレなど
絶食の指示は、とても大切です。前日の夜にこっそりごはんを食べてしまった場合は、正直に病院に伝えましょう。安全のために、手術の日を変更することもあります。キャリーの慣らし方は「猫がキャリーを嫌がって病院に行けない!慣れさせる練習法」で紹介しています。
手術当日の流れ
手術当日の流れは病院によって違いますが、一般的には次のように進みます。
| 時間の目安 | 内容 |
|---|---|
| 午前中 | 病院に猫を預ける。体調を確認し、術前検査を行う |
| 日中 | 全身麻酔をかけて手術。麻酔から覚めるまで様子を見る |
| 夕方〜翌日 | お迎え。術後の注意点や、薬の飲ませ方の説明を受ける |
オスの去勢手術は、日帰りで当日の夕方にお迎えになることが多いです。メスの避妊手術は、日帰りの病院もあれば、1泊入院して翌日にお迎えになる病院もあります。
お迎えのときには、術後の食事の開始時間、薬の飲ませ方、傷口のケア、再診や抜糸の日程などを説明してもらえます。わからないことはその場で確認し、メモをとっておくと安心です。夜間に様子がおかしくなったときの連絡先も聞いておきましょう。
預けている間は心配でたまらないかもしれませんが、多くの猫は、手術の翌日には食欲も戻り、驚くほど元気に過ごします。落ち着いて、お迎えの時間を待ちましょう。
手術後の自宅ケア
家に帰ってきたら、傷が治るまでの1〜2週間は、次のような点に気をつけてケアしてあげましょう。

帰宅した日は、麻酔の影響でふらついたり、ぼんやりしたりしていることがあります。高い場所から落ちてけがをしないよう、キャットタワーのない静かな部屋で休ませましょう。多頭飼いの場合は、ほかの猫がじゃれついたり、病院のにおいを警戒して威嚇したりすることがあるので、数日間は別の部屋で過ごさせると安心です。
傷口をなめたり噛んだりすると、糸がほどけたり、傷口から細菌が入ったりすることがあります。エリザベスカラーや術後服を使って、傷口を守りましょう。エリザベスカラーをつけると、ごはんや水が食べにくくなる猫もいるので、食器を少し高い位置に置くなどの工夫をしてあげてください。
傷口は毎日確認し、赤く腫れている、出血している、膿が出ている、傷口が開いている、といった様子があれば、すぐに病院に連絡しましょう。元気や食欲が戻らない、何度も吐く、といった場合も受診が必要です。
術後服は、エリザベスカラーに比べて首まわりの圧迫感がなく、ごはんも食べやすいため、嫌がる猫が少ないといわれています。ただし、術後服を嫌がって脱ごうとしたり、服の上から傷口をなめたりする猫もいます。どちらを使うかは、猫の性格や傷口の場所に合わせて、獣医師と相談して選びましょう。トイレは、術後しばらくは砂が傷口につきにくい紙系の砂やペットシーツに替えるよう指示されることもあります。
術後の肥満対策
去勢・避妊手術のあとは、ホルモンの変化によって、体が必要とするエネルギーが減る一方、食欲は増えることが多くなります。手術前と同じ量のごはんを与えていると、すぐに太ってしまうので注意が必要です。
- フードの量を見直す:手術前より量を減らす。どのくらい減らすかは獣医師と相談
- 避妊・去勢後用のフードを検討する:カロリーを控えめにし、満腹感を得やすくしたものが市販されている
- 体重を定期的に量る:月に1回は体重を記録し、増えすぎていないかを確認
- 体型をさわって確認する:あばら骨が軽くさわってわかり、腰に少しくびれがあるのが理想
- おやつを控えめに:1日の必要量の1割程度までを目安に
- 毎日遊ぶ:じゃらしで遊ぶ時間をつくり、運動量を確保する
子猫のうちに手術をした場合は、まだ成長期が続いていることもあります。成長に必要な栄養をとりながら、太りすぎないようにするためには、子猫用のフードから切り替えるタイミングも大切です。獣医師と相談しながら、体型を見て調整していきましょう。食事の基本は「猫の食事と栄養管理の基本」で解説しています。
手術で性格は変わる?
「手術をすると性格が変わってしまうのでは」と心配する飼い主もいます。去勢・避妊手術で、猫の性格が大きく変わることは、基本的にはありません。
ただし、発情にともなう行動は落ち着くことが多いです。オス猫の場合は、縄張り意識からくる攻撃性や、スプレー行動、ほかのオスとのけんかが減り、穏やかになったと感じる飼い主も多くいます。メス猫の場合は、発情期の大きな鳴き声や、落ち着かない行動がなくなります。
「甘えん坊になった」「おっとりした」と感じることもありますが、これはホルモンによる落ち着かなさがなくなった結果ともいえます。好奇心や遊び好きな性格、飼い主への愛情といった、その猫らしさは手術後も変わりません。
むしろ、発情のストレスから解放されることで、猫がより穏やかに、快適に暮らせるようになることが多いのです。
なお、すでにスプレー行動が習慣になっている成猫や、性格的に縄張り意識が強い猫では、手術後も行動がすぐには変わらないことがあります。ホルモンの影響が抜けるまでには数週間から数か月かかることもあるので、焦らずに見守りましょう。
手術をしない場合に起こること
去勢・避妊手術は、飼い主の判断にゆだねられています。手術をしない選択をする場合は、次のようなことが起こり得ることを知っておきましょう。
| オス | メス |
|---|---|
| スプレー行動やマーキングが増えることが多い | 年に何度も発情が来て、大きな声で鳴き続ける |
| 発情期にメスを求めて脱走しようとする | 発情のたびに強いストレスがかかる |
| ほかのオスとけんかをしやすく、感染症のリスクも | 乳腺腫瘍や子宮蓄膿症のリスクが高くなる |
| 精巣の病気のリスク | 脱走すると妊娠してしまう可能性が高い |
猫は、交尾の刺激によって排卵が起こる動物で、交尾をすると高い確率で妊娠します。1年に2〜3回出産することもあり、1回に4〜6匹ほどの子猫を産みます。オスとメスを一緒に飼っている場合や、脱走の可能性がある場合は、あっという間に数が増えてしまいます。
繁殖を考えている場合は、生まれてくる子猫すべての飼い主を責任を持って見つけられるかどうか、よく考える必要があります。猫の数が増えすぎて世話ができなくなる「多頭飼育崩壊」は、避妊・去勢をしなかったことがきっかけで起こることが多いのです。多頭飼いについては「多頭飼いで後悔しないために」で紹介しています。
去勢・避妊手術でよくある質問
-
Q完全室内飼いでも、手術は必要ですか?
-
A室内飼いでも、手術をすすめることが一般的です。メスは乳腺腫瘍や子宮蓄膿症の予防、オスはスプレー行動の予防につながります。発情期には脱走しようとする気持ちも強くなるため、脱走の予防にも役立ちます。
-
Q発情中でも手術はできますか?
-
A発情中は子宮や卵巣への血流が増えて、手術中の出血が多くなることがあります。発情が終わってから手術をすすめる病院もあれば、状況によっては発情中でも行う病院もあります。獣医師と相談して、安全な時期を決めましょう。
-
Q手術後、どのくらいで元の生活に戻れますか?
-
A多くの猫は、手術の翌日から数日で、食欲も元気も戻ります。ただし、傷が治るまでの1〜2週間は、激しい運動を控え、傷口をなめないように見守ってあげましょう。抜糸が必要な場合は、抜糸が終わるまでエリザベスカラーや術後服を続けることが多いです。
まとめ:早めに相談して、最適な時期に手術を
去勢・避妊手術は、望まない妊娠を防ぐだけでなく、病気の予防や、発情にともなうストレスを減らすことにもつながる大切な手術です。
- 手術の目安は生後6か月前後。メスは初めての発情前が理想
- メスは早めの手術で乳腺腫瘍のリスクが大きく下がる
- オスはスプレー行動やけんか、脱走が減ることが期待できる
- 費用はオス1万5,000〜3万円、メス2万〜5万円程度。自治体の助成金も確認を
- 術後は傷口をなめさせないようにし、1〜2週間はよく様子を見る
- 手術後は太りやすいので、フードの量と体重を管理する
子猫を迎えたら、ワクチン接種のときなどに、手術の時期について早めに獣医師に相談しておきましょう。わからないことや不安なことは遠慮せずに質問して、納得したうえで手術を受けることが大切です。

