壁やカーテン、ソファの側面に、ツンと鼻をつく強いおしっこのにおい。猫が立ったまま、しっぽをぴんと上げて小刻みに震わせていたら、それは「スプレー行動」かもしれません。一度スプレーをされると、においがなかなか取れず、同じ場所に何度も繰り返されることもあって、頭を抱えてしまう飼い主は少なくありません。
スプレー行動は、猫が自分のにおいをつけて「ここは自分の場所だ」と主張するマーキングの一種です。発情期のオス猫に多い行動で、去勢手術をすると、およそ9割の猫でスプレーが減る、またはなくなるといわれています。しかし、残りの1割ほどの猫では、去勢後もスプレーが続くことがあります。
去勢後もスプレーが続く場合、その多くは縄張りへの不安やストレスが原因です。窓の外に見える野良猫、多頭飼いでの猫同士の緊張、引っ越しや模様替えなどの環境の変化が、猫の不安をかき立てているのです。この記事では、スプレー行動と粗相の見分け方、スプレーの原因、去勢・避妊の効果、においの消し方、そして原因別の具体的な対策まで、図解を交えて紹介します。
この記事でわかること
- スプレー行動と普通の粗相の見分け方
- 猫がスプレーをする主な原因
- 去勢・避妊手術の効果と、手術後も続く理由
- スプレーされた場所のにおいの正しい消し方
- 外の猫・多頭飼い・環境の変化など、原因別の対策
結論:去勢で多くは改善。続くなら「不安」を取り除く
スプレー行動の対策は、次の順番で考えるとわかりやすくなります。
- まず病気を確認する:膀胱炎などの病気が隠れていないか、動物病院で調べてもらう
- 去勢・避妊手術を検討する:まだしていなければ、スプレー対策として最も効果的な方法
- においを徹底的に消す:においが残っていると、同じ場所に繰り返しスプレーをする
- 不安の原因を取り除く:外の猫、多頭飼いの緊張、環境の変化などを見直す
スプレー行動は、猫にとっては自然な行動です。叱っても止めることはできず、かえって猫の不安を強めて、スプレーが増えてしまうこともあります。「なぜスプレーをするのか」という理由に目を向けて、猫が安心して暮らせる環境を整えてあげることが、改善への近道です。
スプレーの改善には、数週間から数か月かかることもあります。すぐに効果が出なくても、いくつかの対策を組み合わせながら、根気よく続けていきましょう。
スプレー行動とは?粗相との見分け方
トイレ以外の場所でのおしっこには、「スプレー」と「粗相」の2種類があります。見た目は似ていますが、原因も対処法もまったく違うため、まずはどちらなのかを見分けることが大切です。

スプレー行動の最大の特徴は、立ったままの姿勢でおしっこをかけることです。お尻を壁や家具に向け、しっぽをぴんと立てて小刻みに震わせながら、少量のおしっこを後ろに向かって吹きかけます。そのため、壁やカーテン、家具の側面など、縦の面におしっこの跡が残ります。
スプレーのおしっこには、ふだんのおしっこよりも多くのにおい成分が含まれていて、強い独特のにおいがします。猫にとっては、このにおいが「自分がここにいた」という大切なメッセージになっているのです。
一方、粗相は、しゃがんだ姿勢で、床やベッド、ラグなどの平らな場所に、ふだんと同じくらいの量のおしっこをするものです。粗相の場合は、病気やトイレへの不満、ストレスなどが原因になっていることが多く、対処法も異なります。粗相の原因と対処法は「猫がトイレ以外でおしっこする原因は?トイレトレーニングと粗相の直し方」で紹介しています。
スプレーはオス猫に多い行動ですが、メス猫や、去勢・避妊をした猫でも行うことがあります。「うちの子はメスだからスプレーではない」と決めつけず、姿勢や場所をよく観察してみましょう。
猫がスプレーをする主な原因
猫がスプレーをする理由は、大きく分けると、「異性へのアピール」と「縄張りへの不安」の2つです。具体的には、次のような原因が考えられます。

発情によるスプレーは、去勢していないオス猫に多く見られます。メス猫に自分の存在をアピールするためのもので、発情期には特に回数が増えます。避妊していないメス猫も、発情期にスプレーをすることがあります。
去勢・避妊をしている猫のスプレーで最も多いのが、外の猫に関係するものです。窓の外に野良猫が見えたり、玄関や網戸から外の猫のにおいが入ってきたりすると、猫は縄張りを侵されたと感じ、窓際やドアの周りにスプレーをして、自分の縄張りを主張しようとします。
多頭飼いでは、同居している猫同士の緊張関係がスプレーのきっかけになることがあります。新しい猫を迎えたときや、猫同士の力関係が変わったときに、スプレーが始まることもあります。
環境の変化や知らないにおいもきっかけになります。引っ越しや模様替え、新しい家具、来客、家族が増えたり減ったりしたときなど、猫が不安を感じる変化があると、自分のにおいをつけて安心しようとするのです。
去勢・避妊手術の効果とタイミング
スプレー行動の対策として、最も効果が期待できるのが去勢・避妊手術です。手術によって性ホルモンが減ると、発情にともなうスプレーは大きく減ります。去勢したオス猫のおよそ9割で、スプレーが減るかなくなるという報告があります。
| ポイント | 内容 |
|---|---|
| 効果 | 去勢したオス猫の約9割でスプレーが減る・なくなる |
| おすすめの時期 | スプレーの習慣がつく前、生後6か月ごろまでが目安(獣医師と相談) |
| 効果が出るまで | 手術後、ホルモンが減るまでに数週間〜数か月かかることも |
| 成猫になってからの手術 | スプレーが習慣になっていると、手術後も残りやすい |
手術の時期は、スプレーの習慣がつく前がおすすめです。オス猫は生後6か月ごろから発情が始まり、スプレーをするようになることが多いため、その前に手術を受けておくと、スプレーの習慣がつきにくくなります。成猫になってからでも効果はありますが、長くスプレーを続けてきた猫では、手術後もスプレーが残りやすい傾向があります。
手術をしてすぐにスプレーがなくなるわけではありません。体の中の性ホルモンが減るまでには、数週間から数か月かかることもあります。手術後もしばらくは、においの掃除や環境づくりを続けましょう。手術の時期や費用、手術後のケアについては「猫の去勢・避妊手術はいつがベスト?」で紹介しています。
去勢後もスプレーが続く理由
去勢手術をしたのにスプレーが続く、または手術後しばらくしてから始まった、という場合は、次のような理由が考えられます。
- スプレーが習慣になっている:成猫になってから手術した場合、ホルモンが減っても習慣が残ることがある
- 外の猫が気になる:窓の外の猫や、網戸から入るにおいに反応している
- 多頭飼いの緊張:同居猫との関係がうまくいっておらず、不安を感じている
- 環境の変化:引っ越し、模様替え、新しい家族、飼い主の生活リズムの変化
- においが残っている:前にスプレーした場所のにおいが消えておらず、繰り返している
- 病気:膀胱炎などでおしっこに違和感があり、スプレーのような排尿をしている
去勢後のスプレーは、発情ではなく不安やストレスが原因になっていることがほとんどです。いつ、どこでスプレーをするのかを記録してみると、原因が見えてくることがあります。たとえば、窓際ばかりなら外の猫、玄関ばかりなら来客や外からのにおい、特定の猫の寝床の近くなら多頭飼いの緊張が関係しているかもしれません。
スプレーの記録をつけて原因を探す
スプレーの原因がはっきりしないときは、1〜2週間ほど記録をつけてみましょう。いつ、どこで、どんなときにスプレーをしたのかを書き留めていくと、共通点が見えてきます。
| 記録する項目 | 記録の例 | 見えてくること |
|---|---|---|
| 日時 | 夕方6時ごろ | 外の猫が活発な時間帯と重なっていないか |
| 場所 | リビングの窓際の壁 | 窓際なら外の猫、玄関なら外のにおいが関係 |
| 直前の出来事 | 窓の外を見てうなっていた | 何がきっかけになっているか |
| 家の中の変化 | 新しいソファを買った | 環境の変化や知らないにおいの影響 |
| ほかの猫の様子 | 同居猫と追いかけっこをしたあと | 多頭飼いの緊張が関係していないか |
記録をつけると、「外の猫がよく通る夕方に、窓際でスプレーをしている」「来客があった日の夜に、玄関でスプレーをしている」といったパターンが見えてくることがあります。原因がわかれば、窓に目隠しをする、来客の荷物を片付けるなど、的をしぼった対策ができるようになります。
動物病院や行動に詳しい獣医師に相談するときも、この記録があると、状況を正確に伝えられ、より具体的なアドバイスを受けやすくなります。スマートフォンのメモや写真を活用して、手軽に続けられる方法で記録してみてください。
スプレーされた場所のにおいを消す
スプレーの対策で欠かせないのが、においを徹底的に消すことです。スプレーのにおいが少しでも残っていると、猫はそこを「自分のにおいをつける場所」と認識して、同じ場所に何度もスプレーを繰り返してしまいます。
- すぐに拭き取る:ペーパータオルで、こすらずに押さえて吸い取る
- 酵素系消臭剤を使う:ペット用の酵素系消臭剤で、においの元になる成分を分解する
- 時間を置いて拭き取る:製品の説明に従って、成分がしっかり働く時間を置く
- 布製品は洗濯する:カーテンやカバーは洗濯機で洗う。においが残るならもう一度
- 見落としを確認する:ブラックライトを当てると、乾いた跡も光って見える
スプレーは壁の高い位置や、家具のすき間、コンセントの周りなど、思わぬ場所に飛び散っていることがあります。においのする場所の周りを広めに掃除しましょう。アンモニアを含む洗剤は、おしっこのにおいに似ているため、かえってスプレーを誘ってしまうことがあるので使わないでください。
壁紙にしみ込んだにおいがどうしても取れない場合は、その部分の壁紙を張り替えることも検討しましょう。においが残ったままでは、ほかの対策をしても、スプレーがなかなか止まらないことがあります。
外の猫が原因のときの対策
窓際や玄関の周りでスプレーをする場合は、外の猫の存在が原因になっている可能性が高いです。家の中の猫が外の猫を見たり、においを感じたりしないようにする工夫をしましょう。
- 窓の下半分に目隠しをする:すりガラス調のシートやカーテンで、外の猫が見えないように
- 窓際の見張り台の位置を変える:外の猫がよく通る方向が見えない場所に移す
- 庭やベランダに猫よけをする:外の猫が近づかないよう、市販の忌避グッズなどを使う
- 玄関の外のにおいを消す:外の猫がマーキングしていたら、酵素系消臭剤で掃除する
- 網戸の開け閉めに注意:外からにおいが入りやすい時間帯は窓を閉めておく
外の猫が庭に来るのを完全に防ぐのは難しいこともありますが、家の中の猫から「見えない・におわない」状態にするだけでも、スプレーが減ることがあります。近所に野良猫が多い場合は、地域の保護団体などに相談してみるのもひとつの方法です。
室内飼いの猫を外に出すと、外の猫との接触でさらに縄張り意識が強くなることがあります。スプレー対策のためにも、完全室内飼いを続けましょう。脱走を防ぐ工夫は「猫の脱走は一瞬で起きる!」で紹介しています。
多頭飼いが原因のときの対策
多頭飼いの家庭でスプレーが始まった場合は、猫同士の関係にストレスがあるのかもしれません。猫同士の緊張を和らげるために、次のような工夫をしてみましょう。
| 見直すポイント | 対策 |
|---|---|
| トイレの数 | 猫の数+1個に増やし、別々の場所に置く |
| 食事の場所 | 1匹ずつ食器を用意し、離れた場所で食べさせる |
| 寝床・隠れ家 | 猫の数以上用意し、1匹になれる場所をつくる |
| 高い場所 | キャットタワーや棚で、上下の逃げ道を増やす |
| 猫同士の相性 | 激しいけんかがある場合は、一時的に部屋を分ける |
多頭飼いでは、誰がスプレーをしているのかがわからないこともあります。その場合は、スプレーされた場所を見張ったり、ペットカメラで撮影したりして、スプレーをしている猫を特定しましょう。スプレーをしている猫がわかれば、その猫が何に不安を感じているのかを考えやすくなります。
新しい猫を迎えたことがきっかけでスプレーが始まった場合は、導入を急ぎすぎた可能性があります。一度部屋を分けて、においの交換から導入をやり直すと、落ち着くことがあります。多頭飼いの環境づくりについては「多頭飼いで後悔しないために」で紹介しています。
安心できる環境づくり
スプレーの根本的な原因は、猫の不安やストレスであることが多いです。猫が安心して暮らせる環境を整えることで、スプレーを必要としない状態をつくりましょう。

猫用のフェロモン製品を使う方法もあります。猫が顔をこすりつけるときに出すにおいの成分を人工的に再現したもので、猫が安心しやすくなるといわれています。コンセントに挿して使う拡散タイプや、スプレータイプがあり、スプレーをされやすい場所の近くで使うと効果的です。ただし、効果には個体差があるため、ほかの対策と組み合わせて使いましょう。
毎日の遊びの時間も大切です。じゃらしで思いきり遊んで狩りの欲求を満たすと、ストレスが発散され、気持ちが落ち着きやすくなります。スプレーをされやすい場所では、猫と遊んだり、おやつをあげたり、ごはんの食器を置いたりするのも効果的です。猫は食事をする場所や遊ぶ場所には、あまりマーキングをしない傾向があるからです。
ストレスのサインについては「そのしぐさ、猫のSOSかも?ストレスサインの見抜き方」も参考にしてください。
スプレーされやすい場所の予防策
原因への対策とあわせて、スプレーされやすい場所を物理的に守る工夫もしておくと、掃除の手間や家への被害を減らせます。
- 防水シートやビニールカバーを貼る:壁の下のほうや家具の側面に貼り、しみ込みを防ぐ
- カーテンを短くする・束ねる:すそが床につかないようにする
- 買ってきた荷物はすぐ片付ける:段ボールや買い物袋についた外のにおいは、スプレーの対象になりやすい
- 来客の荷物や靴を猫から離す:知らないにおいのするものは、クローゼットなどにしまう
- その場所に食器やベッドを置く:猫が食事や休息をする場所にする
これらはあくまで一時的な対策です。場所を守るだけでは、猫は別の場所にスプレーをするようになることがあります。原因への対策と組み合わせて、少しずつスプレーを減らしていきましょう。
動物病院に相談したほうがいいケース
スプレーの対策を続けても改善しない場合や、次のような様子がある場合は、動物病院に相談しましょう。
- トイレに何度も行く、おしっこが少ししか出ない、血尿がある
- 急にスプレーが始まり、ほかにも食欲や元気の変化がある
- いろいろな対策をしても、数か月たっても改善しない
- スプレーだけでなく、攻撃的な行動や過剰な毛づくろいもある
膀胱炎などの病気が原因で、スプレーのような排尿をしていることもあるので、まずは尿検査を受けておくと安心です。病気がなく、環境の対策でも改善しない場合は、獣医師と相談しながら、不安をやわらげる薬を使うこともあります。薬は、環境の対策と組み合わせて使うことで効果が出やすくなります。動物の行動に詳しい獣医師に相談すると、家庭の状況に合わせたアドバイスを受けられます。
猫のスプレー行動でよくある質問
-
Qスプレーをしている現場を見たら、叱ってもいいですか?
-
A叱るのはおすすめできません。スプレーは不安から来ていることが多く、叱られることでさらに不安が強くなり、飼い主の見ていないところでスプレーをするようになることがあります。現場を見ても静かに見守り、あとで黙ってにおいを消しましょう。
-
Qメス猫でもスプレーをしますか?
-
Aします。オスほど多くはありませんが、発情期や、縄張りへの不安を感じたときにスプレーをするメス猫もいます。避妊手術で発情によるスプレーは減りますが、不安が原因の場合は、環境の対策も必要です。
-
Qスプレーはいつか自然におさまりますか?
-
A原因がなくなれば、自然におさまることもあります。たとえば引っ越し直後のスプレーは、新しい環境に慣れると減っていくことが多いです。ただし、においが残っていると習慣になりやすいので、掃除はしっかり続けましょう。長く続く場合は、原因を見直してみてください。
まとめ:スプレーは猫の「不安のサイン」
猫のスプレー行動は、縄張りを主張し、自分のにおいで安心しようとする行動です。去勢・避妊で多くは改善しますが、続く場合は、猫が何かに不安を感じているサインだと考えましょう。
- 立ったまま縦の面に少量かけるのがスプレー。しゃがんでするのは粗相
- 去勢で約9割は改善。スプレーの習慣がつく前の手術がおすすめ
- 去勢後も続くなら、外の猫・多頭飼い・環境の変化などの不安が原因
- においは酵素系消臭剤で徹底的に消す。アンモニア入り洗剤はNG
- 窓の目隠し、資源の見直し、遊び、フェロモン製品で不安を減らす
- 叱らない。改善しないときは病気の確認と、獣医師への相談を
スプレーの改善には時間がかかることもありますが、原因を一つずつ取り除いていけば、少しずつ減っていきます。猫が「においをつけなくても安心できる」と感じられる暮らしを目指して、できることから始めてみてください。猫の問題行動全般については「猫の問題行動の原因と対策」でも解説しています。

